厚生局の指導等及び医療監視への対応策

診療報酬専門研究員の能見です。
今回の『療養担当規則』は、第8条と医師法第24条1に定められている「診療録の記載及び整備」に関する内容についてご説明いたします。

療養担当規則

(診療録の記載及び整備)
第8条 保険医療機関は、第22条の規定による診療録に療養の給付の担当に関し必要な事項を記載し、これを他の診療録と区別して整備しなければならない。

医師法

第24条1 医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。

保険請求の根拠は診療録であることより、症状、所見、指示、処置等の実施した診療行為は、原則すべて診療録に記載しなければなりません。もし、所見や指示もなく治療(投薬、注射等)が行なわれている場合は、無診察治療等の禁止(医師法第20条)に抵触することになります。

第20条 医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。

無診察治療とは、例えば定期的に通院する慢性疾患の患者に対し、診察を行わず処方せんの交付のみをすることをいいます。実際には診察を行っていても、診療録に診察に関する記載が全くない場合や、「薬のみ」等の記載しかない場合には、後に第三者から見て無診察治療が疑われかねません。このようなことを避けるためにも診療録は、十分記載する必要があります。

無診察治療を疑われる事例

・定期的に通院する慢性疾患の患者に対し、診察を行わず(症状所見及び指示の記載もなく「Do」の記載しかない)処方せんのみ交付。

・外来リハビリテーション患者が、理学療法士によるリハビリテーションを行ったのみで、医師の診察の事実がないのに(症状所見及び指示もなく)再診料等を請求。

適正な診療を行っていれは指摘されない?

適正な診療を行っていれば注意を受けるはずはない、と思われるかもしれませんが、残念ながら、保険診療の場合は違います。なぜなら、療養担当規則第8条には、「療養の給付に関して必要な事項を記載し」と定められているからです。たとえ適正な診療を行なっていたとしても、診療録記載に不備・不足があっては、個別指導で指摘を受けることが考えられますし、医療事故が起きた場合の説明根拠としての機能も失ってしまいます。そこで、個別指導が入ることになった際、あるいは裁判が行われる際に、ほとんどの医療機関が診療録の記載内容を見直し、必要があれば追加記載を行っている事例が見受けられますが、これはさらに良くありません。こうした見直しによる追加記載は違法行為です。そうした行為が発見された場合は、診療録の改竄と見なされ、より厳しい指導が行なわれます。理由は、医師法第24条1にある「医師は診療の記録を遅滞なく診療に関する事項を記載しなければならない」とあるからです。

診療報酬の医学管理等はもっとも指摘される項目

指導を受ける際、診療報酬の医学管理等は、診療録の記載不備として最も指摘される項目です。また、追加記載を行うにしても診療時に患者に説明していなければ虚偽内容を記載することにもなる為、注意が必要です。以下に医学管理等の算定を行うにあたり診療録への記載または添付が算定要件となっている項目をまとめました。

<医学管理等で診療録への記載が求められている点数(主なもののみ抜粋)>

項目名診療録に記載または添付が必要な内容
特定疾患療養管理料管理内容の要点
ウイルス疾患指導料指導内容の要点
特定薬剤治療管理料薬剤の血中濃度、治療計画の要点
悪性腫瘍特異物質治療管理料腫瘍マーカー検査の結果及び治療計画の要点
小児科療養指導料指導内容の要点
てんかん指導料診療計画及び診療内容の要点
難病外来指導管理料診療計画及び診療内容の要点
心臓ペースメーカー指導管理料計測した機能指標の値及び指導内容の要点
慢性維持透析患者外来医学管理料特定の検査結果及び計画的な治療管理の要点
糖尿病合併症管理料糖尿病足病変ハイリスク要因に関する評価結果、 指導計画及び実施した指導内容
がん患者指導管理料指導内容等の要点
糖尿病透析予防指導管理料糖尿病性腎症のリスク要因に関する評価結果、 指導計画及び実施した指導内容
ニコチン依存症管理料治療管理の要点
開放型病院共同指導料(主治医の診療録) 開放型病院において指導等を行った事実 (開放型病院の診療録) 主治医の指導等が行われた旨
退院時共同指導料指導内容の要点、患者等への提供した文書の写し
介護支援連携指導料行った指導内容等の要点、ケアプラン等の写し
薬剤総合評価調整管理料評価した内容や調整の要点
診療情報提供料(Ⅰ)(Ⅲ)交付した文書等の写し

能見 将志 プロフィール

医業経営コンサルタント。
診療報酬担当専門研究員。診療情報管理士。中小規模の病院に18年間勤務(最終経歴は医事課長)。
診療報酬改定、病棟再編等を担当。診療情報管理室の立ち上げからデータ提出加算の指導まで行う

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