厚生局の指導等及び医療監視への対応策

いつもお世話になっております。能見です。
前回に引き続き『療養担当規則』についてご説明いたします。

前回までのコラムはこちら

◆健康保険事業の健全な運営の確保とは

(健康保険事業の健全な運営の確保)
第2条の4 保険医療機関は、その担当する療養の給付に関し、健康保険事業の健全な運営を損なうことのないよう努めなければならない。
(経済上の利益の提供による誘引の禁止)
第2条の4の2 保険医療機関は、患者に対して、第5条の規定により受領する費用の額に応じて当該保険医療機関が行なう収益業務に係る物品の対価の額の値引きをすることその他の健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのある経済上の利益の提供により、当該患者が自己の保険医療機関において診療を受けるように誘引してはならない。

つまり、ある患者に対して診療に要した費用を無料にしたり、値引いたりすることは禁じられているということです。例えば、患者の負担が増えるという点より、ある患者にはこの分は請求しない(レセプトに計上しない)など、診療行為は行なったが患者によって請求の有無を決めるなどの行為が、医師の指示によって行なわれているケースもあり、このこと自体も療養担当規則に反することになります。

また、職員や職員の家族の受診については、福利厚生の一環として、会計時に値引きをして請求しているケースも違反に該当します。もし、福利厚生として優遇するのであれば、一旦、窓口負担金を全額支払いその後、減免申請等により返金を行なう方法をとることもあります。

◆患者に対して特定の保険薬局において調剤を受けるべき旨の指示の禁止について

(特定の保険薬局への誘導の禁止)
第2条の5 保険医療機関は、当該保険医療機関において健康保険の診療に従事している保険医(以下「保険医」という)の行う処方せんの交付に関し、患者に対して特定の保険薬局において調剤を受けるべき旨の指示等を行ってはならない。 2 保険医療機関は、保険医の行う処方せんの交付に関し、患者に対して特定の保険薬局において調剤を受けるべき旨の指示等を行うことの対償として、保険薬局から金品その他の財産上の利益を収受してはならない。

「患者に対して特定の保険薬局において調剤を受けるべき旨の指示」とは、具体的には医療機関内に掲示した特定の保険薬局への案内図や保険医療機関の受付において特定の保険薬局への地図等を配布、特定の薬局限定のFAX等を指します。

院外処方を行なっている殆どの医療機関では、調剤薬局が隣接しており、患者の多くはその隣接している調剤薬局で調剤を受けているケースが多いことでしょう。このこと自体は特に問題ではありませんが、問題となるのは会計時に処方箋を渡す際「隣の調剤薬局でこの処方箋を出してください。」などの案内が行なわれているケースです。このような案内は「患者に対して特定の保険薬局において調剤を受けるべき旨の指示」に該当し、療養担当規則違反となります。もしくは、受付の窓口に隣の調剤薬局への地図が掲示されているケースもありますが、これも既述のように療養担当規則違反の範疇として判断されることになります。実際に厚生局からの指導で指摘を受けた医療機関もあります。では、どのような案内であれば違反の対象とならないかについて事例を紹介します。

①口頭で案内する場合

「当院から一番近い調剤薬局は、隣の〇〇薬局ですが、ご自宅の近くの調剤薬局等で受け取りいただくことも可能です。」

②地図で示す場合

 一つの調剤薬局だけではなく、例えば自院を中心に近い順から数か所の調剤薬局を掲載する。

◆保険薬局から金品その他の財産上の利益を収受してはならない点について

「金品その他の財産上の利益」とは、金銭、物品だけではなく便益、労務、饗応、患者一部負担金の減免等を受けることも指します。事例として、例えば隣にある調剤薬局が、ついでに病院や診療所の敷地内(駐車場や玄関など)を掃除したりすることも「労務」を受けることに当たり療養担当規則違反となるため注意が必要です。

ちなみにこの第2条の5については、保険薬剤師の療養担当規則においても同様の項目に加え、さらに細かい内容が定められており、仮に既述の違反に該当した場合は、調剤薬局側にも厳しい指導が行なわれることがあります。

能見 将志 プロフィール

診療報酬担当専門研究員。診療情報管理士。中小規模の病院に18年間勤務(最終経歴は医事課長)。
診療報酬改定、病棟再編等を担当。診療情報管理室の立ち上げからデータ提出加算の指導まで行う。

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